カバンや靴、アクセサリーなど、私たちが日常的に身につけるファッションアイテムのあちこちに使用されているレザー。
レザーは、原料や製造工程の違いによっていくつかの種類に分けられ、そのそれぞれに利点と欠点があります。消費者として、動物倫理や環境問題に配慮しながらより良い製品選びを行うために、レザーを取り巻く課題について学んでいきましょう。
レザーとは?
レザーとは一般に、動物の皮を薬品等で加工したものを指します。皮革(ひかく)とも呼ばれ、耐久性に優れた素材の一つとして様々な製品に利用されています。(※生きた動物の皮→皮、それを加工したもの→革)
人類とレザーの歴史は古く、今からおよそ2万年前には人は狩猟で得た動物の皮を加工して、防寒用の衣服として活用していました。アメリカの先住民であるインディアン(ネイティブ・アメリカン)が民族衣装の一部として上着にレザーのポンチョを纏っていたことからも、レザー加工には長い歴史があることがわかります。
日本には、飛鳥時代までにレザー加工の技術が大陸から伝わったと言われており、その後江戸時代には火縄銃の弾薬入れに、明治時代の文明開化期には草履や下駄に代わる革靴に、レザーが用いられるようになりました。そして、ファッションとして大衆に広く慕われる素材となったのは戦後の高度経済成長期とされています。
レザーはどのように作られているの?
レザーの種類と加工の方法とについては、未来皮革工房「レザーとは?レザー(天然皮革)の特徴、産業、潜む問題について」の記事で詳しくご紹介していますが、ここではそのポイントを簡単にご紹介します。
レザーの加工において欠かせないのが「なめし」の工程です。動物から取った皮はもともと動物の皮膚であり、そのままでは腐りやすく製品に加工することができません。そこで、皮を水や薬品に漬けて汚れを落としたり、着色や乾燥をしたりします。このなめしの工程を経ることで、製品に加工できる素材としての革が生まれます。
現在は、塩基性硫酸クロムを主成分とした薬品に漬けて加工する「クロムなめし」が一般的で、それによって製造されるレザーを「クロムレザー」と呼んでいます。
本革と合皮の違いは?
レザーの種類は大きく次の3つに分けられます。
天然皮革(本革)
天然皮革や本革と呼ばれるレザーは、本物の動物の皮をなめした革のこと。多くの場合、「革・レザー」と呼ばれる素材は、この天然皮革を指します。(本記事でも、以下「レザー」と呼ぶものは天然皮革を指します。)
天然皮革に用いられる動物にはいくつか種類があります。
- 牛:国内で出回っている天然皮革製品の大部分が牛革。
- 豚:数ある天然皮革のなかで、唯一国内自給率100%。
- 鹿:日本で最も古くから生産されてきた皮革の一つが鹿革。
このほかにも、馬やカンガルー、ヒツジやヤギの革も存在します。
天然皮革の大きな特徴は、その優れた耐久性と独特の質感です。寒さや衝撃から動物の身体を守る役割をしている皮から作られる革製品は寿命が長く、適切に手入れをすることで10年、20年と使い続けることができます。また、その質感や模様も一つとして同じものはなく、動物由来ならではの独特の風合いが特徴です。
合成皮革(合皮)
人工的に作られるビニールやプラスチック製の革を合成皮革(合皮)と言います。製品によっては、フェイクレザーと呼ばれることもあります。
合成皮革は、天然皮革と比べて大量生産が可能で、より手ごろな価格で入手できます。その反面、製品寿命は数年程度と耐久性に大きな違いがあります。
人工皮革(人皮)
合成皮革と似た素材に、人工皮革(人皮)があります。人工皮革も、合成皮革と同じく非動物由来の人工繊維から作られますが、両者の違いはその製造方法です。
合成皮革ではその土台に織物の層を用いるのに対し、人工皮革では不織布で土台の層を作ります。また、表面には樹脂の層を施す点はどちらも共通していますが、より革らしい見た目を作りだすデザインの加工過程にも違いがあります。
つまり、不織布を用いて製造される革を人工皮革と分類するのです。
レザー産業の現状
経済産業省が公表している「経済産業省生産動態統計」をもとに日本皮革産業連合会がまとめた、国内のレザー生産の概況によると、2012年から2020年までの8年間で、牛や豚を由来とするクロム甲革の生産量は減少傾向にあります。
実際、同データでは、2012年1月〜6月のクロムレザー生産量が約100万枚であったのに対し、2016年同月間では約74万枚、そして2020年同月間には約36万枚までその生産量が減っていることを示しています。また、レザーの貿易額も生産量と同様に減少の推移をみせています。
レザーが抱える課題
年々その生産量が減り続けているレザー。その背景にはいくつかの課題があります。ヴィーガンの視点からそれらの課題について考えてみましょう。
通常、レザーの製造には食肉として加工された動物の皮が用いられています。そのため、食肉の消費量が増えれば、必然的にその副産物から出る動物の皮の原料も多く発生します。多くの食肉が消費されている現代社会では、家畜の飼育やその加工にまで管理が行き届いておらず動物の権利に反した生産方法で食肉やレザー製品が製造されているケースも少なくありません。そのため、ヴィーガン(動物倫理)の観点からレザーの使用に異議を唱える人もいるのです。
さらに、レザーには環境負荷の面でも課題が残されています。
温暖化の直接的な原因の一つとされている温室効果ガス。実は、牛やヒツジなど家畜のゲップから放出されるメタンガスが地球の平均気温上昇に拍車をかけているとも言われているのです。そこで温暖化を食い止めるための方策の一つとして、食肉の消費量を減らそうという流れも生まれています。食肉産業と密接な関わりを持つレザー産業において、家畜が与えうる地球環境への悪影響は見過ごすことができない課題です。
加えて、現在のレザー加工において一般的なクロムなめしには、多量の水と化学薬品を使用するため、それによる環境負荷や有害物質による環境汚染も問題視されています。
その一方、動物性レザーの代替として挙げられる合成皮革や人工皮革にも、先に触れたように製品寿命が短く廃棄物が出やすいという環境へのデメリットがあるのが事実です。より高寿命・高耐久な天然皮革の方が廃棄物の発生を抑制でき、環境にとってもより優しいのではないかという意見もあり、環境にとって正しいとされる答えはいまだ導き出されていないのです。
動物にも環境にも優しいヴィーガンレザー
これまでに紹介した3種類のレザーがいまだ解決できていない動物倫理の課題と地球環境の課題。近年、その両方にアプローチする素材として「ヴィーガンレザー」に注目が集まっています。ヴィーガンレザーとは、非動物性レザーのことを指し、合成皮革や人工皮革などが含まれます。
下のサイトデータは繊維の種類別に環境に与える影響の大きさを示しています。水資源、地球温暖化などの項目に対し、本革である牛革はヴィーガンレザーである合成皮革と比較して2.6倍以上の悪影響を引き起こしていることが明らかになりました。
このデータが示しているように、レザーが環境問題に広く関係していることから、近年は植物性原料から生産されるレザーが動物にも環境にも優しい素材として注目を集めています。アップルレザーやサボテンレザーなど、用いられる原料は多種多様です。
これらの植物性レザー製品は大量生産が難しくあまり多く出回っていないため値段が高い傾向にありますが、大きな可能性を秘めた素材として世界各地で研究が進められています。
まとめ
ここまで、レザーにはいくつか種類がありそれぞれが利点と欠点を抱えているという現状を整理してきました。今後は、食肉産業の状況や従来のレザーに代わる新素材の開発などで、レザー産業にも新たな変化が現れると予想されます。
消費者としてレザーを取り巻く課題について正しく理解した上で、自分のライフスタイルに合わせて見た目や耐久性、価格など多角的に検討し、愛着を持って使用できる製品を選ぶよう意識できると良いですね。
【参照サイト】
・日本化学繊維協会
・JLIA 一般社団法人日本皮革産業連合
【参照記事】
・ABOUT LEATHER|一般社団法人日本タンナーズ協会
・人工皮革と合成皮革|東京都クリーニング生活衛生同業組合