寒い季節に大活躍なのが、保温性抜群のファー製品。その独特の風合いと気持ちの良い肌触りが特徴のファッション素材です。現在市場に出回っているファー製品のほとんどが、動物の毛皮から作るリアルファー、あるいは化学繊維から作るフェイクファー(エコファー)です。
しかし近年、リアルファーとフェイクファーを取り巻く議論が活発になっています。それぞれの問題の背景も踏まえ、それぞれが持つメリットとデメリットについて知り、より賢い製品選びとは何かを考えてみましょう。
ファー(毛皮)とは?どんな種類があるの?
ファーは、動物の体毛がついたままの皮膚のことを指し、日本では「毛皮」とも呼ばれます。保温性や通気性に優れているだけではなく、高耐久で長持ちすることから人気の高いファッション素材です。また、ファーが持つ動物由来独特の柄や光沢、そのふんわりとした手触りも大きな特徴です。
動物から得られたファーに染色をしたり模様をつけたりと様々な加工を施すことで、製品へと作り替えられています。
特に洋服やカバン、アクセサリーに使用されることが多いファーにはいくつかの種類があります。例えば、代表として次のようなものが挙げられます。
- タヌキやアライグマなどのフォックス類
- リスやウサギなどのラビット類
- 羊を中心とするラム類
リアルファーが抱える動物倫理の課題
人類は古くから、狩猟によって手に入れた動物の毛皮を剥いで防寒用の衣服として活用してきました。日本人の先祖も毛皮を活用しながら発展してきましたが、国内でファーを身につける文化が大衆化したのはバブル期だと言われています。
そしてファーが広く出回るようになると、高まる需要を満たそうと、原料となる動物の乱獲や道徳的ではない方法での飼育が増えていきました。その結果、アメリカワニやバラシンガジカ、その他多くの動物が個体数を減らし、絶滅の危機に瀕しています。
このような非倫理的な動物の扱いや生物多様性の喪失には、ヴィーガンの視点からも多くの否定的な声が挙がっているのです。
そうした消費者の動きを受けて、シャネルやプラダ、ステラ・マッカートニー、グッチ、やバーバリーといった有名アパレルブランドは、次々と動物由来のファーを使用した製品づくりをしないことを宣言しました。
また、世界各地の国や行政の単位でも動物の毛皮の輸入を制限したり、動物の飼育・生産に関する法律を定めたりと、いくつかの取り組みがなされるようになりました。
例えばカリフォルニアでは2019年、アメリカ50州初となる毛皮製品の製造と販売を禁止する法案が可決されました。ここでは、牛革や鹿、羊などいくつかの種類の毛皮は対象外としているものの、ミンクやウサギ、ビーバーなど数多くの野生動物から毛皮を取ることが禁止される予定で、2023年1月からの施行を見込んでいます。
動物の権利を守る人工のフェイクファー
私たちが一般的に「ファー」と呼ぶものの多くは、ここまでにご紹介した本物の動物の毛皮であるリアルファーを指しています。しかし最近では、化学繊維などから人工的に作るフェイクファーも広く流通しています。
フェイクファーは動物に由来しない素材から作るため、動物たちの権利を侵すことがありません。また、フェイクファーはエコファーという名前でも知られており、人工素材であるがゆえの管理のしやすさも特徴の一つです。リアルファーは適切に管理・保管しなければ腐敗しやすい一方、フェイクファーはカビや虫食いに強く、手入れが比較的簡単です。
さらに、化学繊維に関する研究や技術開発も進んでおり、リアルファーに引けを取らない品質でありながら、より軽かったりと機能面においても優れたフェイクファーが増えています。
リアルファーとフェイクファーを取り巻く議論
動物倫理上の課題を抱えるリアルファーと、その課題にアプローチするフェイクファーですが、環境への影響の面から見ると、そこにはまた別の課題が眠っています。
フェイクファーの多くは、石油を由来とする原料から仕立てられる化学繊維です。石油は燃やすと温室効果ガスを排出するため、地球温暖化の直接的な原因であると考えられています。加えて、地球にどのくらいの石油が埋蔵されているのか、明確な量は未だ判明しておらず、このままの消費ペースでは、早ければ数十年以内に地球上の全ての石油を使い切ってしまうとも言われています。そのため、石油を原料とするフェイクファーの需要が高まることで、環境汚染に拍車がかかるとの強い懸念もあるのです。
さらに、フェイクファーはリアルファーと比べて耐久性が低く、毛も抜け落ちやすいです。さらに毛が抜け落ちた場合の修繕が難しいというデメリットもあります。
これらのデメリットが、大きく分けて2つの環境負荷へとつながっています。まず、耐久性が低い上に修繕が難しいため、製品の寿命が短く、廃棄物が出やすくなります。さらに次に、着用時や洗濯時に毛が抜けやすく、抜け落ちた毛がマイクロプラスチックの流出源となり海洋生物全体へ影響を及ぼす恐れがあります。
これらの理由から、環境負荷の高いフェイクファーを生産するよりも、リアルファーを安全かつ倫理的な方法で生産する方が、よりサステナブルではないかと声を上げる人もいます。
まとめ
リアルファーにもフェイクファーにも、それぞれメリットとデメリットがあり「100%良い」と言えるファーはないのが現状です。
そんななか、皆さんはどのようにファー製品を選びますか?動物のため?環境のため?正解のない問いだからこそ、「自分なりのエシカル」を大切にベターな消費選択を行う力を養っていきましょう。
【参照サイト】一般社団法人 日本毛皮協会
【参照記事】CALIFORNIA BECOMES FIRST STATE TO BAN FUR
密猟や違法な取引から、野生生物を守ろう!